ヒルガオ
今、私の住む地域では、古くなった文化住宅の住民が移転させられて、取り壊しが進んでいる。
空き部屋の多くなった連棟は、二階への外階段などは錆び、危なつかしげで、ぽつぽつと残っている住民も、心細くなり始めている。
すでに人の住まなくなった住宅の前は、住んでいた時に植えた植物たちが、わがもの顔に繁茂しはじめている。
農業用水路沿いにある、無人になった文化住宅は、水路の柵と住宅の間に、車が一台通れるほどの細い道路がある。この柵にも野草がからみついて茂っているので、狭い道路が一層せまくなり、
見る見るうちに荒れ果てた様に変化して行く。
私は淀川の土手に行くとき、この住宅を横に見ながら水路にかけられた橋を渡ることが多い。夏の夕方など、通る人もない狭い道路にまでテーブルや椅子を出し、
バーベギューをする家族を見かけ、眼が合えば軽く会釈をすることもあったのを思い出す。
ある日ここを通ると、家主が取り壊しまでに整理をしたらしく、繁茂した木や花も、フェンスにからみついた草も、きれいに刈り取られていた。
ところが、しばらくすると、このフェンスに、またまたつるがはいあがり、薄桃色の大きなヒルガオが咲きはじめた。
家族のバーベギューが賑やかだったころは、ここには野ブドウやヒルガオのつるがからみついていて、夏には薄桃色のヒルガオ、
秋には青や紫のとりどりの色をした野ブドウの実が風に揺れていた。
すっかり刈り取られてしまい、もう全くダメになったものと思っておりましたのに、しぶとく生きていたようです。
私はフェンスの間から手をすべり込ませて、なんとかこのヒルガオを採集して持ち帰りました。去年の夏の終わりごろのことです。
持ち帰った苗はすぐに我が家のプランターに植えましたが、つぼみはしおれて枯れ、冬には地上部もすべてなくなり、すっかり忘れておりました。
春先そのプランターからつるが伸び始めました。ヒルガオかどうかわかりません。六月に入ってもつるは伸びるのですが、つぼみがあるようには見えません。
ただの雑草だから抜いてしまおうと思いつつ、そのまま伸ばしていました。
そうしましたら昨日、からみついたつるのさきに、あの見覚えのある、大きな薄桃色の花が咲いているのに気がつきました。ヒルガオです。
アサガオのように目立つつぼみはなかったのです。
よく見ると緑の葉っぱのような大きな二枚の額に覆い隠されて、その中でつぼみは保護されぬくぬく育っていたのです。探すと中につぼみを抱いた薄緑の柔らかな額が、一枚一枚の葉の根元にあって、
まるで緑の炎のように段々とつるの上にまでついているではありませんか。
今年の夏は我が家のフェンスでたくさん花を咲かせてくれることでしょう。こんな日は心がふっと軽くなります。 2015.6.20 |