これまでの花日記

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ワレモコウ

ワレモコウを我が家に迎え入れるのはこれが二度目である。一度目はもう30年ほど前になるだろうか。 淀川の堤防は今ほど整備が進んでいなかった。夏には堰堤に上がるのにも、人の背丈を越すほどになった雑草たちを、 かき分けかき分け、クモの巣だらけになって、藪こぎした頃のことである。

その頃の野草たちは元気いっぱいであった。秋、この土手で、燃えるような大きな夕陽を背にした、 ワレモコウのシルエットに出くわしたとき、わたしはそれを持ち帰りたくてたまらなくなったのだ。

直立した茎の先に、折れ曲がった何本かの細い枝があり、その先端に濃い紅紫黒色の球状の花穂。誰が名を付けたのか「我も紅」。 「私もこれでも紅いのでございます」とそっと自己主張していると、名付け親なる人は、この植物に多大の感情移入をしていたに 違いないと思うのです。

丁寧に根を掘り、連れ帰った苗は鉢植えにして育てた。けれども葉は茂り大きくはなるのですが、一向に花がつかない。 土手のように充分な陽が当らないのが最大の原因かと思えるが、それでも鉢を大きくしたり、陽当たりのよいところに置いたりと 何年も葉ばかりのワレモコウを未練たらしく育てていた。

そんなこんなで近くではあるが、引っ越しすることになった時、その鉢植えに見切りをつけのだ。ところが先日、 野草好きの友人がワレモコウをくれるという。鉢が小さいのか枯れてきたし、去年咲いた花もドライフラワーにしたけれど あまりぱっとしないからというのが手放したい理由。見ると真新しい鉢に植えられたワレモコウの葉は、縮れて枯れかけている。 野生ではなく購入した苗だそうだ。

う〜ん これを植えられる大きな鉢と考えていると、見越したように「地植えにすればいい」と彼女は云う。 地植えなんてとんでもない。どれだけ大きくなることかと心の中で呟きつつも、頭の中では、もうせわしなくどの鉢を空けるか 考えている私。「鉢の準備ができたらもらいに来るから、それまで置いといてね」とすでにことばが口をついて出る。

さて、一番大きな鉢には「隅田の花火」と名付けられた八重咲きのアジサイが植えられている。去年の梅雨ごろ、 枝を二本いただいて、鹿沼土にさしておいたら二本ともよく根付いた。優柔不断の私は、例によって捨てるほうの選択ができず、 「そんなんしたらあかん。思いきって一本にしないと」という友の忠告を無視して二本一緒に大きな鉢に植えたのだ。

もちろん今年の梅雨には金平糖のような細かい八重の花びらに包まれた、まん丸で大きな花が四つも咲いた。そうだ、 これを一本にして、中鉢に植えかえ、大鉢を空けてワレモコウを迎えればいい。それではどちらを捨てましょうかと、 ここではたと立ちすくむ私です。

一晩よくよく考えた結果、出てきた答えはというと、一軒おいてお隣の奥さんのこと。もうすぐ社会人という二人の息子さんがいて 共働き。花が好きだけど時間がないからと、せっせと花の苗を買ってきては、プランターや鉢で四季折々に花を咲かせている。

ときどき水切れで花たちが可哀そうなこともあるけれど、アジサイが好きらしく何鉢かあって、今年は鮮やかなブルーとピンクが きれいに咲いていた。あの人に頼んでみよう。きっと育ててくれるに違いない。と甚だ身勝手で独断に満ちた結論を胸に、 次の日の夕方恐る恐るピンポンを鳴らす。

この人いつも小花模様で形の違う、ご自分で作った素敵なエプロンを身につけている。私はひそかにエプロン夫人と呼んでいる人。 出てきた夫人はもちろんかいがいしいエプロン姿である。長話している時間はないはずだから、ここは先に結論言わなきゃと顔を見るなり 「アジサイいりませんか。アジサイ好きそうやし」と切り出す。

「えっ ああ アジサイは好きだけど、ほったらかしなのよ。」「きれいなブルーのが咲いてたよ。」「咲いてたねぇ。 なんにも手入れしてないのに。」「そうなん。健気やねぇ」「あっははは」。今だ、と一気にしゃべる私。

「八重咲きのアジサイやねん。二本挿木したらどちらも根付いたの。捨てられなくて両方育てたら、今年花が咲いたのだけど、 一本もらってもらえないかと思って」一瞬とまどった顔つきをしたエプロン夫人の答えはこうでした。 「そうゆうことならいただくわ。鉢の用意が出来たらもらいに行きますから」商談成立です。

普段は積極性が無いだの、石橋を壊すまで叩くだの言われているのですが、こんな時には人が変るんです。そうして鉢の準備が 出来た私は、めでたく二度目のワレモコウを手に入れたのでありました。

今その苗は大きな鉢に植えられて、陽当りのいい場所を独占し、新芽が5〜6本も出ています。こんどこそ咲かせてみたいと毎日眺めては 期待に胸をはずませる毎日です。私の所へ来てくれてありがとう。

2015.7.23